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プレスリリース「さくらあい 2000-8」

技術の風土記
第29回【岐阜の製陶】
ユニバーサルデザイン総合研究所代表 赤池学

社会的付加価値を創出する産廃物再生資材の活用

包装容器、特定家電など、リサイクル法の強化で産業廃棄物への取り組みはさまざまな形で進められるようになった。しかし、行き場のない産廃はまだまだ後を絶たない。今回は、製陶の練り込み技術を活かし、多様な産業廃棄物からリサイクル建材を開発する、岐阜のタイルメーカーをレポートする。

歴史あるやきものの町で焼かないものづくりに挑戦

岐阜県東濃地区。土岐市・多治見市・瑞浪市・笠原町を主な産地とする美濃焼は、およそ1300年の長い歴史のなかで、瀬戸黒・黄瀬戸・志野・織部といった数多くの名陶を生みだしてきた。そして、その伝統的なやきもの技術を背景に、多様な和洋食器などが生産される一方で、タイルやニューセラミックスなどの近代産業も発展してきた。

土岐郡笠原町はもともと茶漬け碗の産地であったが、昭和初期に国内ではじめて施釉モザイクタイルが焼かれた町であり、国内有数のタイル産地である。

こうした「やきもの」の産地にあって、焼かない製品づくりをおこなっているユニークな企業がある。1956年創業のタイルメーカー、亀井製陶株式会社だ。同社は、97年に原料の80%に廃棄物再生資材を使用した、無焼成レンガ「アーザンブリックス」を発売した。窯業廃土をはじめ、下水汚泥焼却灰、石炭灰、溶融スラグ、ガラスくず、ペーパースラッジなど、さまざまな廃棄物を利用したリサイクルレンガである。すでにエコマーク商品として認定され、岐阜県廃棄物リサイクル認定製品にも指定されている。

多種の産廃物を活用する無焼成固化技術を開発

このような商品開発をおこなうキッカケとなったのは、92年から2年間にわたり笠原町の産業廃棄物対策協議会に同社が参加したことにある。処分場の現状やリサイクル製品市場について学習を重ね、廃棄物を何とか有効利用したいという思いから、独自研究を開始したのである。亀井宏明氏は語る。
「当初は、窯業系の廃棄物をメインに考えていたのですが、市場性の面から見ると業界内にこだわらず、間口を広げてより社会性のある廃棄物\資源を導入してリサイクルしていかなければ、受け入れられないと考えました」

前述したように、同社の開発した無焼成レンガは実に多様な廃棄物を原料としている。何をどの程度混入するか。文字通り、試行錯誤の繰り返しだった、と当時を振り返る。

研究を始めたころの亀井社長の脳裏にはもちろん、本業の技術を生かした焼成による加工成形があった。しかし、焼成にむかない資材や焼くためには前処理が必要なものもあり、コスト高になったり、廃棄物利用の条件が限定されることになる。そこであえて生業を離れ、焼かない加工技術を高度化したのである。

「周囲は、二代目の道楽と思っていたのでないでしょうか」と亀井社長は苦笑するが、二年がかりで、窯業技術である土の練り込みのノウハウとセメント固化技術を合体させた「無焼成レンガブロックの製法」を完成し、特許を取得した。無焼成なら、製造過程でも二酸化炭素を排出しない。より環境負荷の少ない製品を産む結果にもなった。96年、自社内にパイロットプラントを建設。97年には販社・株式会社エコ・エンジェルズを設立して本格的な製造・販売に乗り出している。

道路を安全で安心な廃棄物処理場に

風合いだけは、やきものにこだわった、という「アーザンブリックス」は、そのアンティーク・レンガ風の仕上がりと、安価な値段が一般消費者に受け入れられ、ガーデニングブームにも助けられて、ホームセンターでも高い人気を博している。

また、同社が下水汚泥処理焼却灰を受け入れている自治体が試験的に遊歩道などに使用を進めるなかで、強度や滑りにくさといった品質が認められ、施工例は県内外に広がっている。「道路を安全な廃棄物処理場に」というのが、目下の目標である。

同社では、提供者である企業や自治体が、環境庁基準をクリアして無害であることを、責任をもって証明した廃棄物のみを原料として受け入れているが、現在、さまざまな分野から廃棄物処理の打診があるという。

今年5月には、関西電力株式会社と関連会社が亀井製陶と協力して、発電所のダム湖の底泥、貝殻、建設廃棄物などグループ内で排出する廃棄物を再利用して無焼成レンガブロックを製造・販売する事業化計画を打ち出した。関電は来年度中の事業化をめざし、グループ外の企業や自治体とのネットワーク構築を進めていくとしている。電源開発のために協力してきた自治体などへ、今度はリサイクル資源をお返しするという発想だ。

こうした地域の中核となりうる大手企業との協力事業に、亀井社長は大きな期待を寄せている。
「これからのエコ商品は商売のバーターではなく、いかに地域における社会性を持てるかが大切だと思う」
そのためには、行き場のない廃棄物をいかに大量に処理し、いかに汎用性のある商品を開発していくか。光触媒を利用して窒素酸化物を除去するといった機能性の開発、有害物質を無害化して新たな原料とするなど、社会的な付加価値を創出する可能性はまだまだ数多くある。

環境白書によると、96年度の産業廃棄物は約4億500万トン。汚泥、動物糞尿、建設廃材がその8割を占めるという。廃棄物を出さない知恵ももちろん重要だが、廃棄物をいかに安全、かつ有用な社会基盤にリサイクルしていくか、環境ビジネスはこれまでの処理事業から、環境創造事業としての発展が期待されているのだ。

※地球製品という意味で名付けられた、アーザンブリックス。既存のブロックと比較して曲げ強度で1.2倍以上、圧縮強度で1.7倍以上の強度がある。滑り抵抗値が基準の1.5倍以上と滑りにくく、歩行感もやさしいという。また、俗に「土を殺す」と呼ぶ、やきものの練り込み技術により、均一で緻密な生地ができあがるため、長期にわたって踏みしめられても退色・退化が少ない。角形(上)と、角を丸く仕上げたコボルタイプ(下)がある。

※あかいけ・まなぶ ジャーナリスト。
中国対外経済貿易大学客員教授。昭和33年東京都生まれ。筑波大学第二学群生物学類卒。朝日新聞に二年間連載した『匠の博物館』をはじめ、製造業技術、科学哲学分野の執筆、講演活動をおこなう。主著に、『世界でいちばん住みたい家』『温もりの選択』『ものづくりの方舟』『トヨタを知るということ』『自動車が進化する』などがある。

(さくらあい 2000-8)

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